ヒトー異端のサルの1億年
島 泰三
中公新書
2016年

現生人類以外の類人猿を自由な立場で研究している方の著作であるが、ネアンデルタール人が「日本サルのように毛でおおわれていたはず」という見解は、多分単純な勘違いであろう。
ミトコンドリアDNA分析から、中央値で約20万年前に現生人類がアフリカで誕生したと主張する論文は読んでメモ済みであるが、ほぼ確実に20万年前の人類は、現在よりもはるかに体毛が多く濃かったはずである。20万年=8000世代の間の性選択(要するに、体毛の薄い女性を男性が好んだ)により、人類の体毛は、薄く、細くなって現在に至ったと考えるべきである。ヒトにも体毛はあるのだから。逆に言えば、ヒトに体毛が全くなければ、言い換えれば、ヒトが汗をかく必要性がない地域にのみ生息していれば、著者の主張は成立しうる


p66 
ゴリラにはO型の血液型はない。O型は、ヒトにもチンパンジーにもあるのに、ゴリラにはないことは、進化史上ごく少数集団になるまで個体数が減ってしまった厳しい時期、ボトルネックと呼ばれる遺伝的に狭い通路を通ったことを示す証拠と考えられている

p75 
チンパンジーと人類が分岐した年代は、 
多くの研究結果は700万年前としている

p81 
オランウータンやゴリラの雌が単独の雄とだけ交尾するのに対して、チンパンジーの雌は最大8頭もの雄と交尾することが知られている

p158 
ミトコンドリアDNAの研究では、ネアンデルタール人の母方の遺伝子は現代人に伝わっていなかった
遺伝子の流れはネアンデルタール人の雄からホモサピエンスの雌へ一方的なものだった。
優勢な集団の男性が劣勢な集団の女性に子供産ませその子供たちは母親と共に劣勢な集団にとどまるというのがよくあるパターンだ。 
白人から奴隷への遺伝子流動はその顕著な例である


現在、Y染色体ハプログループには、ネアンデルタール人のハプログループは存在しない。常染色体分析結果からしてあっても不思議ではない。

The Divergence of Neandertal and Modern Human Y Chromosomes

この論文によれば、かつては当然存在し、現生人類のハプログループA00が最も近いものの、推定としては、ネアンデルタール人のY染色体を有する現生人類の男性は絶滅したのであろうとしている。
この論文の分析では、27万5000年前である。

Figure 2.

Figure 2



p159 
優勢だったのは先行人類であり、ホモサピエンスではない

p171 

ネアンデルタール人 
ヨーロッパ全体でも4400人~5900人程度ではなかったかと見積もられている

p174 
ネアンデルタール人 彼らは野生生物であり、毛皮をまとった哺乳類で簡単に言えば雪の中でも生活できる日本猿のような人類だったからである

p180 
毛におおわれていない種も全く例外的であることも明らかである
ホモサピエンスの裸の皮膚が生存に適していないという一点

p193 
ホモサピエンスだけが裸の類人猿だったのである。裸体化を決定する遺伝子の突然変異は、多くの哺乳類にとって本来は致死的な突然変異である
裸という不適応形質を乗り越える苦闘にって水辺生活者という新しいニッチを創出したのである

p194 
好んで泳ぎ、魚を取り、貝を取り、水草や海藻を食べる全く新しい大型類人猿、ホモサイエンスの誕生である