遺伝学テキストシリーズの第一巻であり、合祖理論などについて分かり易く解説している

p2
遺伝子と一口に言っても色々な種類があるので、しいて定義するとすれば、「ある機能的なまとまりをもったDNA領域」ということになるだろう。数も多く代表的な遺伝子としては、たんぱく質を作り出す桃であり、アミノ酸配列の情報を与える部分(タンパク質コード領域)を中心に、遺伝子発現に必要なDNA配列が含まれる。
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p10
中立論では進化の総合説が最重要視した自然淘汰よりも、突然変異を進化の原動力と考えている。もっとも、突然変異は無秩序に生ずるので、多くの突然変異は生物にとって有害である。これら有害な突然変異は短時間のうちに消えていくので、長期的な進化には寄与しない。この過程を良いものが選ばれてく正の自然淘汰と区別するために負の自然淘汰と呼ぶ。この部分については中立説でも進化の総合説でも同じである。両者の見解が大きく異なるのは、進化に寄与する突然変異についてである。進化の総合説では、何らかの意味で生存に有利な突然変異だけが進化の過程で生き残ったと考える。これを正の自然淘汰と呼ぶ。
DNAレベルでは中立突然変異の方が生物の生存に有利な突然変異よりもずっと多いのである


p16
微小突然変異

突然変異には、微小な変化(点突然変異と呼ぶこともある)として、塩基の置換、挿入、欠失がある。
これらのうち、塩基置換はさらに置換する塩基の組み合わせによって、転位(transision)と転換(transversition)に区別される。転位はプリン(アデニンとグアニン)どうし、ピリジリン(シトシンとチミン)どうしの置換であり、転換はプリンとピリジミンの間の置換である。通常、転位の方が頻度が高い。

p18
比較的大きな変化を生じる突然変異

配列の並び方が変化するタイプには、組み替え、逆位、遺伝子変換がある。塩基配列の何らかの変化絵を突然変異と捉えれば、これらも広い意味で突然変異である。

P19
塩基配列の大規模な挿入というタイプの突然変異もある。それは、繰り返し配列(repeat sequence)の挿入と遺伝子重複(gene duplication)という、大きく2種類に分けられる。 略
ヒトゲノムでは、Alu配列やL1配列が代表的な繰り返し配列である。これらがゲノムの中で自身のコピーを増やすことは、ホストゲノムから見れば、挿入タイプの突然変異である
遺伝子重複は、直列重複(tandem duplication)とゲノム重複の2種類に分かれるが、前者は不等交叉(unequal crossing over)から始まる。交叉は通常相同な塩基配列が対合した後に生じるが、たまに対合がずれると不等交叉になる。その結果生ずる2本の染色体は、特定のDNA領域を2個有するものと欠如するものとなる。


P20
突然変異率
古典的には、突然変異率は世代あたりで考える。 略 親の遺伝子とこの遺伝子を比較して異なっていれば、突然変異が生じたとされる。このような方法を「直接推定法」と呼ぶ

突然変異率のもう一つの推定方法は、長期間の進化の間に累積した突然変異を考慮して間接的に推定する方法である。後述するように中立進化速度が突然変異率に等しいという性質を用いて、中立進化したと考えられるゲノム領域の進化速度を求めるのである。現在、求められている突然変異率の推定値の大部分は、この間接推定法によって得られたものである。進化速度λが一定だと仮定すると、2本の進化的に相同な塩基配列間の進化距離dは以下のようになる

d=2λT

ここでTは分岐年代であり、2が付くのは、共通祖先からそれぞれ塩基配列に至るまでの2系統での変化の合計が進化距離になるからである。例えば、ヒトとチンパンジーのゲノム全体における塩基置換数は、藤山秋佐夫(fujiyama 20002)らによって1.23%と推定されたが、これを進化距離dとし、またヒトとチンパンジーの分岐年代Tを仮に600万年とすれば、塩基配列の進化速度λ(=d/2T)は、塩基サイトあたり、年あたり1.03×10のマイナス9乗となる。哺乳類ゲノムの大部分は中立進化していると考えられるのでこの値が突然変異率の推定値だとしてよいだろう、ただし、ここでは世代あたりではなく、年あたりになっており、また塩基サイト当たりの突然変異率である。
実際の数値は14.8×10のマイナス6乗
インフルエンザA型ウィルスの同義置換速度は、年あたり、塩基サイトあたり、0.01程度である。これはヒトゲノム中のタンパク質コード遺伝子の同義置換速度(およそ1.0×10のマイナス9乗)の1000万倍である

P28
合祖理論を用いた遺伝子系図の動態

集団中のn個の遺伝子の合祖過程を考えてみよう。集団中からn個の遺伝子をランダムに取り出した時、それらがT-1世代のあいだ別々の祖先をたどって、T世代目にさかのぼってから、n個のうちの2個が合祖する確率Cp(n,T)は、近似的に以下の式で与えられる。
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これらn個の遺伝子が単一の共通祖先遺伝子に等アッツするまでにかかる世代数を「合祖時間」と呼ぶ。その期待値は、 略 4N(1-1/N)世代である。nが大きくなると、近似的に4N世代となる。ただし、このうちの半分を占める2n世代は、n個が2個まで合祖してから最終的に1個に合祖するまでの過程である。


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P29
図5の現在集団には、突然変異によって白丸遺伝子のコピーが5個、緑●遺伝子のコピーが2個存在している。このとき、夫々の遺伝子を「対立遺伝子」(alle)と呼ぶ、これはゲノム中の同じ遺伝子(ゲノム中の特定の場所を占めていることから遺伝子座と呼ぶ)に複数種類があり、それらがお互いに対立しているとみなして名づけられたものである。

この合祖先仮定に基づく遺伝子の系図は、色々な解釈があり得る。最も重要なのは、中立突然変異が、有限集団では確かに集団全体に広がる(固定と呼ぶ)ことができる、というものだ。図5の遺伝子系図を見てほしい。現在の集団N個体に存在する2N個の遺伝子全体を考えても、この過程は成り立つので、平均して4N世代さかのぼれば、Nがどんなに大きい数であろうと、有限であれば、1個の共通遺伝子にたどり着くのである

P30
このような集団全体の個体数の変動を遺伝子系図から推定する研究がデータの多い人類集団を中心に、近年進んできている。(例えば、jobring 2004)


上は、下記書籍であり全文入手は不可であった。
Human Evolutionary Genetics

遺伝的多型
P30
生物集団において、ゲノムの中の相同位置にある塩基配列(遺伝子座)を比較したとき、一塩基でも異なっている場合に、その集団のその塩基配列には「遺伝的多型」(genetic polymorphisim)が存在するという。

P31
すると標本数(調べた個体数と調べた延期数の両方に依存する)が少なければ少ない程、集団全体では遺伝的多型があるにもかかわらず、見かけ上単型である(遺伝的差異がない)可能性が高くなる。このため、最も頻度の高い対立遺伝子以外の対立遺伝子の頻度が任意の値(普通は1%)以上であるときは遺伝的多型があり、それ未満であると単型とする操作的定義が用いられることがある。ただ、最近は頻度に限らず、遺伝子の塩基配列に何らかの変異を見出したら、それを「多型」と呼ぶことが多い
DNAの最小単位であるヌクレオチド1個における遺伝的多型を「単一塩基多型」(singele nucleotide polymorphism,SNP)と呼ぶ。SNPは、基本的に塩基置換タイプの突然変異によって生ずるものである。エクソン領域(cDNAに対応する)に存在するSNPをcSNP、それ以外の領域に存在するものをgSNPと呼ぶこともある
この他に突然変異のタイプによって挿入・欠失多型(insertion deletionを略してindelと呼ぶことがある)、リピート数多型がある。リピート単位が1~5塩基と短い場合、STR(Short tandem repeat)
或いはマイクロサテライトと呼び、れぴーと単位が数十塩基である場合、ミニサテライト多型と呼ぶ